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インドネシア植林と水田再生 ―熱帯林保全と泥炭湿地再生プロジェクト―

熱帯林の保全と開拓農地の修復

I 硫酸酸性の放棄水田再生の試み

背景
インドネシアの沿岸部には2000万ヘクタールに及ぶ広大な泥炭湿地林があり、1960年代末までその大部分は見事な湿地林。政府の移民開拓事業や企業のプランテーション開発で、これまで約800万ヘクタールが開かれた。その半分を占める政府移民開拓地は無残な失敗で、放棄された荒地が広い。排水で乾いた泥炭が大きく沈下したり、土から硫酸が放出されたため。

50センチメートル単位のコアサンプル
(50センチメートル単位のコアサンプル。6メートルまでが泥炭、その下は乾くと硫酸を放出するマングローヴ泥)

泥炭の薄い潮汐湿地が開発されたため、硫酸の放出が広域に生じ、この劣化した荒地の修復は国際的にも国内的にも緊急の課題。大規模開発の失敗を省みず、世界銀行やインドネシアの公共事業省は大規模な修復計画を繰り返し、失敗に失敗を重ねる。これまで私たちはインドネシア全域の泥炭湿地調査の経験に基づき、2003年から、スマトラのジャンビ州で入植移民と共同で、農民技術を使った修復の取り組みを開始。

方針
かつては湿地だったとは言え、今や、乾季には大部分が埃っぽい状態。農民の行う稲作は雨水だけに頼る陸稲栽培に近く、これでは土の中や水路に貯留された硫酸を洗い流すことはできない。私たちの方針は、作土の中の硫酸を洗い流すこと、常時湛水を保ち、硫酸の上昇を抑えること、石灰や肥料、微量要素を与えること。
もうひとつは、殆ど裸地となって乾燥の進むこの地域で、育林を根付かせて、かつての森林を取り戻すこと。裸地状態では、乾季、とくにエル・ニーニョ年の厳しい乾季に、表土が大きくひび割れ、心土まで乾燥して硫酸が放出される。この状況を避けるためにも常時水を張った水田化が重要だが、より広域に乾燥化を抑えるためには、緑化が必須。

2004年/2005年雨季稲の成功
前年度の失敗は、作土の鉄不足のため、稲生育の節目節目にクロロシスが生じ、生育遅れと生育ムラが著しいためと判断。鉄欠乏への対応は、赤土客土(43トン/ヘクタール)、鉄と他の微量要素を含む液肥の葉面撒布を2週間に1回行った。pHを5に矯正するため、石灰を2.35トン/ヘクタール、また尿素、塩化カリ、燐酸を50kg/ヘクタールの割で施肥。
この結果、生育ムラは著しく改善され、1筆1ヘクタールの稲が全面均一に生育、これまでの放棄田や、ヘクタール当たり籾800kgという極低収穫に比べ、スムートという伝統種で最高5.8トン籾/ヘクタールと大前進。ただし、品種による差は大きく、サダネでは4.2トン、カリヤでは2.9トンに留まった。
ともあれ、この高収量は革命的で、3月20日に知事や郡長が参加した収穫祭はお祭りムードで実施。2005年/2006年の雨季作に州政府が全面的支援に乗り出す相談がはじまった。

不毛の酸性硫酸塩土で見事に稔った稲
(不毛の酸性硫酸塩土で見事に稔った稲。移民の喜び)

II 2005年1月-5月、沈香木の植林開始

JIFPRO(国際緑化推進センター)の助成を受けて、沈香の苗木約11000本を購入、トラックとボートで現地へ運び、現地に苗圃2棟を設けて養生の後、移民に配布。ランタウ・ラサウ郡の3か村200戸が植林事業に参加、5月までに植栽をほぼ完了。この事業は、ボゴール農業大学に作られたヤヤサン・プロパーリンク・ダルマ、本NPO、現地の村長と農民グループ長で構成するガハル委員会が統括、植栽と管理は参加農民。10年以内に最初の収穫を目指す。
2005年11月に見ると、すでに1メートルを超える丈に成長したものもある。

沈香苗木を大事に抱える
(沈香苗木を大事に抱える)

III 2003/2004年雨季稲の状況

スマトラの東岸、ジャンビ州ブルバック・デルタの移民入植地ランタウ・マフムール村とランタウ・ラサウ村で、2ヘクタールの試験地を2箇所設定。1箇所は20年来、稲を植えたことがないという放棄地、もう1箇所は収量が籾で800kg程度の極低収穫田。これでも、収穫が出来る田は20%に達しないという状況の中では、いい方。私どもの水田化計画に参加した最初の農民は4人、彼らと協同して試験を先導するのは、ボゴール農業大学の講師3人と学生3人、ジャンビ大学の講師1人と学生2人。

2003/2004年の雨季は3月まで床上浸水の洪水が繰り返し、苗代を2回作り直して、最終的に植え付けを終えられたのは4月中旬。3月の洪水の後、水路の水のpHを測ってびっくり。幹線水路の取水水門の近くでは新鮮な川水が流入するので、pHは6台だが、3、4キロメートル内陸へ入ると、表面水のpHは4台に下がり、底の水は3.5といった値。その辺りで圃場の側溝の水を測ると、pH3.2といった強酸性。毎年、洪水が何度も繰り返してきたのにこれだけ強い酸性が残っている。つまり、硫酸水は比重が大きいので、水路や側溝の底に居座っている。ポンプで強制潅漑排水を行い、水勢を強めて酸を洗い流す対応をする。

地方種の植え付け時期は遅くても1、2月までで、4月に感光性の強い地方種を植えた場合、開花するとしても来年の3月頃になると思われる。それで結局地方種の植え付けは止め、非感光性のIR品種を植え付け。周りの農民は洪水の稲作は諦めており、私たちの試験を興味深々で見守る。結果的に、乾季にくいこむ二期作水稲、インドでボロと呼ばれる稲作の試験となる。モニター要員と農民の話をまとめると、初期は順調に育ったが、1ヶ月位と3ヶ月位に稲が黄色くなり、枯れたと判断。しかし、私が8月に見たとき、稲は生きており、穂をつけているものも多いが、きわめて貧弱な稲。野豚と鳥の食害も多大だったと聞く。

もう一つは育林計画。一部に泥炭が残存し、そこにはアブラヤシ、ゴム、アカシアなどの樹園地が作られているが、劣悪な立地のため生育不良で、絶えず伐採、火入れがある。かつての湿地林は姿を消し、一面の荒廃草原が広い。緑化を進めることは土地を乾かさないためにも、また伐採前線へ再流出している移民社会を安定化させ、伐採前線の拡大を止めるためにも重要。
しかし、この不安定な状況で、育林事業は決して簡単ではない。付加価値が高く、比較的短期に収穫可能な生産林作りから始めないと、緑化は難しい。私たちは沈香木の育林を突破口にした緑化事業を計画。沈香は焚香に使われる香木で、天然条件では、きわめて小さな確率で、Aquilaria(ジンチョウゲ)属の心材に精油が偶然濃縮し始め、数十年を経て香木が採れる。精油が溜まる可能性を大幅に高め、時期も大幅に短縮できる技術に林業省の森林微生物研究室が成功しています。私たちはその方法を使う計画。

Aquilaria以外にも、心材や葉から様々な精油が採れる樹種が熱帯には種々あり、そうした香木の育林計画に向けて、インドネシア側でヤヤサン(NPO相当)の設立準備を進める。当NPOのメンバー数人もこれに加わり、両者の連携を密接にし、地元農民、小・中校生を加えた緑化活動を展開する計画。

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