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インドネシア植林と水田再生 ―熱帯林保全と泥炭湿地再生プロジェクト―

熱帯林の政府移民開拓地

人口移動政策

赤道帯の多島海に広がるインドネシアは、今でも緑豊かな森林が随所に見らるが、閉じられた樹冠を持つ自然林はこの30年の間に急速に減少した。FAOの推計では、1980年に1億6千万ヘクタールあった森林が2000年には1億ヘクタールに減少した。その主因のひとつに、経済成長を進めるため、政府が計画した人口移動政策がある。ジャワ、バリ、マドゥラなど、人口密度が800人を越える過密な島から、スマトラ、カリマンタン、イリアンなど過疎の島へ住民を移すもの。

移民の受け皿に選ばれたのは、丘陵・台地と沿岸低湿地の2種類。丘陵・台地はやせ土のサバンナ林が立つまづしい自然環境。しかし、ここはともかくも農業で暮らしていくことが可能だった。問題は沿岸低湿地で生じた。そこは、管理の難しい泥炭と酸性硫酸塩土が広がる立地。従来は、自発的移民が立地を良く見て立地を選び、小規模な開拓を進めてきた。排水用の水路も、小さなもので。見かけはいかにも取り留めのない風景。

硫酸の出る土

政府の移民政策は、住民開拓地の背後に、大規模な開拓地を開いた。重機を駆使して深く広い排水路を掘り、水路沿いに移民用の真新しい家を立ち並べ、多くの移民を入れた。空から見ると、幹線水路、支線水路が規則正しく走り、農地が整然と整備され、見事な眺め、ところが、地上に降り立って見る状況は、全く逆。

スマトラ島ジャンビ州バタンハリ河デルタの開拓地
(スマトラ島ジャンビ州バタンハリ河デルタの開拓地。沿岸の緑に魚骨状水路は住民開発地、内部の黄色に直線水路は政府開発地)

政府移民開拓地は7,8年過ぎると、どこも作物が取れなくなった。土地が乾いて、泥炭が分解消失し、地表に出た酸性硫酸塩土から、硫酸が大量に放出されたため。土のpHは3、水路の水はpH2といった強酸性になった。硫酸の放出は、エル・ニーニョの年の厳しい乾燥でどっと進む。米やココヤシ、果樹は勿論、キャッサヴァのような強い作物も、枯死。このことをよく知っている住民は、この土を死に土と呼ぶ。

作物がとれない移民は町や他の島、会社の行う産業造林や輸出作物プランテーションへ出稼ぎに。結局、沿岸低湿地の政府移民開拓は、広大な密林を消失させただけで、農地の創出は失敗に終わった。ある意味では、過疎地帯の経済成長は進んだ。製材所や合板工場が雨後の竹の子のように増え、当てのない移民の受け皿になった。伐採跡地の植林など行われないので、遠からず、森林は消失するだろう。結局、自分の足元を掘り崩していることになり、今、移民が味わっている嘆きは、国の嘆きに成る恐れが大きい、これが現状。

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